中村 望

• プロフィール

  脳機能に影響を及ぼす呼吸の効果とその応用：

  
  

  呼吸は、日常生活でなにげなく行われているものですが、身体の外の環境と呼応して、大胆かつ繊細に変動します。呼吸は、心臓血管系や消化系などと同様、生体内の無意識に調節され、また、ストレスや情動・認知機能に深く関わります。スポーツや武術など、特に剣道やボクシングや相撲では、息に合わせた動きが大変重要視されます。また「阿吽の呼吸」という言葉が古くからあるように、呼吸は、何かしらの同調に関与しているのかもしれません。

  
  

  近年、ヨガや坐禅などの手法に基づく呼吸法は、ストレスを低減させる効果をもつことが示され、うつ病などの精神疾患対策として用いられています。また、呼吸と関連深いアロスタシス（動的適応能）は、生命の営みだけでなく、思考の原理のフィードフォワード作用の概念でもあり、自由エネルギー原理とともに、神経科学分野で大変注目されています。

  
  

  ところで呼吸は、なぜ、他の臓器活動と異なり、意識的にもコントロールできる「二重支配」なのでしょうか。意識下で、何か、特別な役割があるのでしょうか。

  
  

  これらの役割を明らかにするために、私たちは、ヒトfMRIを用いたアプローチ、マウス光遺伝学を用いたアプローチの二方向から、さらに、さまざまな最新の手法を駆使して、ヒトとマウスからのアプローチのメリットとデメリットを補完する形で、脳機能の研究を進めています。

  
  

  最近の私たちの研究では、呼吸活動は、意識下の "脳のオンライン状態 (顕著性・セイリエンスや注意、記憶符号化や想起などの脳の状態)" で重要な役割を果たすことを明らかにしました (Nakamura et al., Cereb Cortex Commun, 2022; Nakamura et al., Nat Commun, 2023)。これらの成果は、日本語や英語だけでなく、計１６言語 (メディア報道参照) にて、世界各国のニュース記事や動画で紹介されました（英語ニュース動画：https://cheddar.com/media/study-how-you-breathe-can-affect-memory）。